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神戸地方裁判所姫路支部 昭和49年(ワ)81号 判決 1976年8月23日

主文

1  原告の請求はいずれも棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

(主位的請求)

1 被告らは、各自原告に対し、金五二二万〇三二〇円及びこれに対する昭和四七年一二月一〇日以降支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

2 訴訟費用は被告らの負担とする。

3 仮執行宣言

(予備的請求)

1 被告らは、原告に対し、各々金二六一万〇一六〇円及びこれに対する昭和四七年一二月一〇日以降支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

2 訴訟費用は被告らの負担とする。

3 仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する答弁(被告両名)

主文同旨

第二当事者の主張

一  請求原因

1  (本件事故) 訴外亡小西毅は、昭和四七年九月一七日午後九時三〇分頃、原動機付自転車(姫路い二六七号)(以下被害車という)を運転して、姫路市広畑区小坂七四番地先路上(以下本件道路という)を東進中、同所中央付近にある深さ約一〇乃至一五センチメートル、長さ東西約一・五乃至一・六メートル、南北約一・四メートルの窪みにはまり、転倒した。

2  たまたま右小西の後を自動二輪車(姫路あ七二九三号)で追随していた原告もまた右窪みにはまり込み、右車で右小西を轢過したため、同人は死亡するに至つた。

3  そのため、右小西の相続人らは、原告及び被告両名を相手方として、損害賠償請求事件(当庁昭和四八年(ワ)第二五九号)を提起した。当庁は、昭和五〇年一二月二二日、左記の趣旨の判決をなし、右判決は、右小西の相続人らと原告との間では確定した。

(主文)

(一) 被告ら(本件原告及び被告両名)は、各自、原告小西英美に対し、金八四一万四六五四円及び内金七四一万四六五四円に対する、原告小西隆行、同小西かおりに対し、各金四七九万四六五四円及びこれに対する、原告小西きくゑに対し金五〇万円及びこれに対する、それぞれ昭和四八年九月六日以降支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

(二) 原告らの被告らに対するその余の請求をいずれも棄却する。

(三) 訴訟費用はこれを二分し、その一を原告らの負担とし、その余を被告らの連帯負担とする。

4  原告は、右訴訟において、右小西の相続人らに対し、昭和四七年一〇月四日金二〇万円、同年一二月七日金二万〇三二〇円、同月一三日金五〇〇万円を支払つた。

5  原告の右出捐は、被告らの次のような不法行為に基づくものである。

(一) 被告福和建設株式会社(以下被告会社という)は、被告姫路市(以下被告市という)より、本件事故現場を含む前記道路一帯の下水道工事を請負つたのであるが、右下水道工事完了後、他の工事施行部分を舗装しているのに、本件事故現場の前記窪みの部分については未舗装のまま放置しており、又、右部分について何らの警戒標識も設置していなかつた。被告会社は、右窪みの部分を直ちに補修するか、もしくは、夜間進行中の車の上からでもはつきり認識できる何らかの警戒方法を設置して事故の発生を未然に防止すべき業務上の注意義務があるのに、右義務を怠り、事故を招来したものであるから、民法七〇九条もしくは七一九条に基づく損害賠償義務がある。

(二) 被告市は、前記道路の管理者として、右道路の管理に瑕疵がないように注意しなければならない義務があるのに、右義務を怠つたものであるから、国家賠償法二条に基づく損害賠償義務がある。

6  仮に右損害賠償の請求が認められないとしても、原告は訴外小西の相続人らに前記のとおり金五二二万〇三二〇円を支払つており、右金員は、本件事故の共同不法行為者である原告及び被告両名の間においては、各々の過失の割合に応じて求償しうるものである。そして、原告の過失は不可抗力に準ずるもの、あるいは極めて軽微なものといえるのに比して、本件道路の瑕疵がなければ、本件事故は発生しなかつたであろうといえるから、原告と被告両名間の過失の割合は、原告一、被告市及び被告会社各四・五と解するのが相当である。

7  よつて、原告は、第一次的には、被告両名に対して損害賠償請求として、各自金五二二万〇三二〇円及びこれに対する昭和四七年一二月一〇日から支払ずみまで民法所定の年五分の割合による金員の支払を求め、第二次的には、求償権請求として、各々金二六一万〇一六〇円及び右各金員に対する昭和四七年一二月一〇日から支払ずみまで民法所定の年五分の割合による金員の支払を求めるものである。

二  請求原因に対する被告両名の認否

1  被告市

(一) 請求原因1のうち、窪みの位置、広さ、深さは否認し、転倒の原因は不知、その余の事実は認める。

(二) 同2及び3は認める。

(三) 同4は不知。

(四) 同5のうち(一)の被告市が、右事故現場付近の道路に水道管埋設工事を被告会社に請負わせたことは認めるが、その余の(一)及び(二)はいずれも否認する。

(五) 同6及び7はいずれも否認する。

2  被告会社

(一) 同1乃至3はいずれも認める。

(二) 同4は不知。

(三) 同5(一)のうち被告らに損害賠償責任のあることは否認し、その余は不知。同5(二)は不知。

(四) 同6は争う。原告は判決認定の総額を賠償したわけではない。

3  被告市の主張

(一) 被告市には、本件事故発生個所についての道路管理責任はなかつた。すなわち、

(1) 被告市は、水道事業管理者として、本件道路を含む姫路市西土井、朝日谷、興浜地区の水道配水管布設工事を相被告会社に請負わせた。

(2) 本件事故現場は、同市西土井の工区の末端に位置し、その工事内容は、幅員約六・五メートルのアスフアルト簡易舗装の市道南側を幅三メートル、深さ一・七メートル、長さ一五メートルにわたつて掘削し、直径二五ミリメートルの鋳鉄管を埋没してから、その上に、土砂及び砕石を入れて埋め戻し、突き固めたうえ、路盤に異常がないことを確かめて仮舗装するものである。

(3) 右請負契約においては、工事が完了し検査のうえ被告市への引渡しがあるまでは、被告会社が右道路の保守、管理、防災に関する一切の責に任ずる旨約定されていたものである。

(4) 被告会社は、昭和四七年八月二六日右工事に着手し、同年九月三日仮舗装を終えたが、本件事故当時、未だ前記検査も引渡も未了であつたのであるから、本件道路の管理責任は被告会社にあつたものというべく、被告市には存しない。

(二) 仮に被告市に本件道路について管理責任があつたとしても、右管理につき瑕疵はなかつた。すなわち国家賠償法二条に基づく道路の管理に瑕疵があつたことによる責任は、道路がそれぞれの構造部分の目的のために必要な性能を欠く不完全な状態にあり、かつ、管理者の意思作用が不完全であることを発生要件とするもので、この瑕疵は過失の客観化されたものと認識される。即ち、当該道路部分が通常人が一般的にその個所において期待するであろう状態に反する状態にあり、かつ、これに対処すべく通常一般人が管理者に要求するであろう措置がなされていないことをいう。およそ、道路は理想として、構造上、整備上、物理的、技術的に完全無欠のものであることが望ましいのは勿論であるが、現実にはそのようなものは少ないのであり、当該道路の沿革、位置、環境、交通状況等諸般の事情から勘案して一般人をしてその通行に支障を及ぼさないと認識させる程度で足りるものであり、この意味において本件道路には何ら瑕疵は存しない。

また、本件道路工事個所の保守、管理、防災等一切の責任は、前記のとおり工事が完了し検査のうえ引渡しを受けるまで被告会社に負わせていたのであり、被告会社は、その事業目的からその責任に対応する知識、経験、能力を有する適格者である。

もとより、被告市においても、随時、必要に応じて現場の監督、点検に当つており、昭和四七年九月九日の大雨の後にも現場を点検したが、その際、仮舗装に何ら異常を認めなかつたものであり、本件工事個所は、本件事故の前日まで特段の異常はなく、本件事故発生の工事個所の窪みは、右九日よりも降雨量の少なかつた本件事故当日に急速に形成されたものであつて、その原因も、当時雨天であつたことの他は詳らかでなく、かつ、被告市に対しその間なんびとからもそれについての通報などもなかつたのであるから、被告市に対して事前にこれに対応した措置を講ずるように要求することはそれ自体無理であり、事前にとるべき措置はなかつたのであるから、この点からみても、被告市には、本件道路の管理に瑕疵があつたということはできない。

(三) 仮に本件事故につき被告市にも責任があるとしても、共同不法行為者間の負担部分の決定には結果に対する因果関係、加功度、過失等を考慮すべきところ、本件事故においては、原告の負担部分が極めて大である。すなわち、

(1) 原告は自認するとおり運行の用に供してはならない自賠責保険契約を締結していない車両を運行して本件事故を起した。

(2) 本件事故が発生した道路の窪みは、その前の台風の影響による降雨等から事故当日急速に発生したものである。のみならず、当時、被告市は、本件道路部分の保守、管理、防災に関する一切の責任を、水道配水管布設工事を請負わせていた相被告会社に負わせていた。そして、被告市は、右窪みの発生につき、他から何らの通報も受けていない。

(3) 原告は、本件道路を平素から通勤に利用しているため、道路事情に通じており、本件事故当時右降雨等から本件道路事情は良くなかつたのに拘らず、夜間で暗いのに、毎時四五キロメートルの高速度で、先行する被害車との車間距離を僅か七メートルしか保たず漫然道路中央付近を進行したものである。

(4) 被害者の死亡の直接原因は原告車の被害車胸部轢過による左胸腔内出血である。右窪みはこれにはまつても、運転者がせいぜい倒れて(四輪車ならバウンドするのみ)受傷する程度である。従つて、被害者の死という結果に対する原告の責任は重大である。

(四) 共同不法行為者間には主観的共同関係がないため、その責任は不真正連帯債務と解すべきところ、これには連帯債務についていう負担部分はない(共同免責の観念も入れない)と考えられるので、その一人が他の者に対して求償しうるのは少なくとも自己の負担部分を超える賠償をなした場合に(全部賠償しなければ求償し得ないとの説もある)その超えた部分につき他の者になしうるものである。原告においてその主張の出捐をなしたとするもこれが自己の負担部分を超えるものとは到底考えられない。

(五) また、原告が出捐したという金額の内金五〇〇万円は、他の者との関係では原告の前記(三)(1)の過失に対する自己単独の負担分と解すべきであり、原告もその意味で出捐したものである。というのは、原告が僅少の保険料を支払い自賠責保険契約さえ締結しておりさえすれば、本件事故で被害者に金五〇〇万円の同保険金給付がなされた筈であるのに、原告はこれを怠り、その享受利益を自ら放棄していたものであるのに、これによる自己の損失分を他の者に負担させるのは信義衡平上妥当でないからである。これを許すと保険不締結の場合不当に他の者に不利益を与えることになる。

第三証拠〔略〕

理由

一  本件事故の責任

1  訴外小西毅が、昭和四七年九月一七日午後九時三〇分頃、被害車を運転して、本件道路を東進中、本件事故現場において転倒したこと及び請求原因2の事実は当事者間に争いはない。

2  そこで次に本件事故の態様及び原、被告らの責任について検討することとする。

(一)  成立に争いのない甲第九、第一一号証、第一六乃至第一八号証、第二〇、第二一号証、第二四乃至第二六号証、第二八乃至第四四号証、第四六乃至第四九号証、第五六号証、第五八乃至第六四号証を総合すれば、次の事実が認められ右認定を覆すに足る証拠はない。

(1) 本件道路は、ほぼ東西に通ずる幅員約六・五メートルの市道(被告市の管理する道路)である。

(2) 被告会社は、昭和四七年七月三一日被告市との間で締結した姫路市西土井、朝日谷、興浜地区配水管布設工事請負契約に基づき、本件道路を掘削し、配水管を埋設して埋め戻した後、アスフアルトによる簡易舗装(仮舗装)をした。右仮舗装は、被告会社が訴外株式会社平野組に下請けさせて、同年九月三日にその工事を完了した。

(3) 本件道路の如く土木工事によつて掘削された道路は、地盤が弱く沈下し易いため、その復旧にあたつては、埋め戻し後直ちに本舗装をすることなく、前記のように、一旦仮舗装をして通行の用に供し、地盤が固まるのを待つてから本舗装するのが通例である。そして、右仮舗装も厚さが三センチメートル程度で水に弱いため、降雨などによつて道路が冠水した場合には、車両の通行によつて生じた亀裂などを通して浸水し、地盤が陥没して路面に窪みが生じ易い。したがつて、右仮舗装期間中、道路の状態に注意を払い、特に大量の降雨があつた場合にはすみやかに巡回し、欠陥個所があれば直ちに補修するか、またはこれに警戒標識を設置するなどして、もつて、交通事故その他の危険を未然に防止すべき措置を講じているのがこの種工事の際の道路管理者である市または工事請負人の注意義務とされていた。

(4) 而して、本件道路は路面が周囲の土地より低いうえ、姫路地方は、同年九月七日以降一〇日までの間熱帯性低気圧の影響により、さらに同月一四日以降一六日までの間台風の影響により、それぞれ相当量の降雨があつた。そのため、本件道路は冠水しこれが地盤に浸水して、遅くとも同月一七日未明には本件事故現場の交差点中央僅かに南寄りの地点に、東西約一・四メートル、南北約一・六メートル、深さ約一一センチメートルのほぼ円形の窪み(本件窪み)が生じ、車両の通行に危険な状態になつた。そして、現に同日午前七時五五分ころ進行中の自動二輪車が本件窪みにはまつて転倒し、その運転手が負傷する事故があつた。

(5) 本件道路は、前記工事による仮舗装のままの状態で、路面にはおうとつが多く、また、本件事故現場の交差点(南北に通ずる幅員約四メートルの道路との交差点)は、信号機が設置されておらず、西南角には人家があつてこの部分の見通しがきかないうえ、本件事故当時は、台風による影響で大雨が降つた後であり、しかも夜間で稍暗い状態であつた。

(6) 原告は、新日本製鉄株式会社に勤務するもの、被害者は、太平工業に勤務していたもので、右双方とも、平素本件道路を通勤に利用し、道路事情に通じ、本件事故当時も夜勤のためそれぞれ出勤途中であつた。

(7) 原告は、先行する被害車に僅か七メートル位の車間距離を保持しただけで漫然本件道路中央付近を進行し、折から被害車が本件窪みにはまつて転倒したのをみて、急きよハンドルを切つてこれを避けようとしたが及ばず、本件窪みから約九メートル東方の本件道路中央やや南寄りの地点において、同所に転倒した被害者の胸部を轢過した。

(二)  そこで、以上認定したところにしたがつて、原、被告らの責任について考えてみる。

(1) 原告の責任について

原告が本件事故当時被告車を保有し、自己のためにこれを運行の用に供していた者であることは、これを自白しており、原告が右認定のとおり被害者を轢過したのであるから、原告の右行為と被害者の死亡と因果関係があるところ、右(一)の(4)(5)に認定した状況において自動二輪車を運転する場合は、左寄通行することは勿論、路面の状況に応じて直ちに対応できるよう徐行し、その前方を注視し、特に前車に追随して進行する際は、車間距離を十分にとり、且つ前車の行動に万全の注意をして、前車との衝突など事故の発生の防止に努むべき業務上の注意義務があるのに、原告は、これを怠り、同(7)認定のとおり運転した過失によつて本件事故を惹起せしめた。

よつて、原告は、自賠法三条に基づく損害賠償義務を免れ得ない。

(2) 被告会社の責任について

被告会社としては、前記工事の請負人として、遅くとも右台風の通過した同月一七日早朝には早速本件道路を巡回し、本件窪みを発見し、早速これを補修するか、これに警戒標識を設置するなどして、車両の嵌り込み、転倒などの危険を警告し、以つて事故を未然に防止すべき注意義務があつたのに、これを怠り、何らこうした本件窪みに対する措置を執ることもなくこれを放置した点に過失があると云わなければならない。よつて、民法七〇九条に基き本件事故による損害を賠償すべき義務がある。

(3) 被告市の責任について

前記認定のとおり、被告市は、本件道路の管理者として、被告会社について認定したと同様の危険防止措置を自ら又は請負人である被告会社をして講じ又は講ぜしめず、これを放置しておいたことはその管理に瑕疵あるものと云わなければならない。この瑕疵が、本件事故発生の一因である。

この点につき、被告市は、前記配水管布設工事が完了し検査のうえ引渡しがあるまでは、本件道路の管理責任は被告会社にあり、被告市にその責任はない旨主張する。しかし、本件道路は被告市の管理する公の営造物で、その管理は公の行政作用に属するものであり、前掲証拠、特に成立に争いのない甲第三三ないし第三五号証、第三八ないし第四一号証によれば、被告市は、右工事についても、監督員を置くなどして全般的に被告会社を指揮監督していたことが認められるから、仮に、被告会社が右工事請負契約において防災上の責任を負わされていたとしても、被告市は、なお本件道路の管理者として、その責任を免れることは出来ない。さらに、被告市は、本件道路は一般人をしてその通行に支障を及ぼさないものと認識させるに足るものであるから瑕疵はなく、また、被告市としては本件事故前において本件窪みに対応した措置を執ることは不可能であつたから、本件道路の管理に瑕疵はない旨主張する。しかしながら、本件窪みの存在が車両、特に自動二輪車の通行にとつて危険であることはその形状からみても明らかであり(現に、本件事故当日の早朝にも自動二輪車の転倒事故があつた)、また、本件事故当時の道路事情、気象状況からみて本件の如き窪みの発生は予測できないものとはいえず、そして、本件窪みは遅くとも九月一七日未明には既にできていたのであるから、被告市にとつて、本件事故発生に至るまでの間にこれを補修するなどその安全策を講ずることは十分に可能であつたと認められる。被告市の右各主張はいずれも失当というべきである。

よつて、被告市は、国家賠償法二条に基づき、本件事故による損害を賠償すべき義務がある。

二  本位的請求についての判断

以上のとおり、原、被告らは、いずれも本件事故につき、共同不法行為者として、被害者の相続人らに対して損害賠償義務を負うべきであるから、原告の無責任を前提として損害の賠償を求める第一次請求は理由がないものと云わなければならない。

三  原告の予備的請求についての判断

1  共同不法行為における損害賠償義務は、不真正連帯債務の関係にあるところ、その共同不法行為者間相互における負担部分を確定するには、各自の過失の内容、程度、結果発生に対する加功度等を総合して判断し、若し、その負担部分を超過して被害者に賠償した者は、他の不法行為者に対してその超過部分につき求償し得るものとなるところ、

2  本件について考えてみると、本件事故は、前示認定(第一項2(二)(1)(2)(3))の各責任事情特に原告において道路状況に即応できるよう徐行し、且つ、前車との間に適当な車間距離を保ち、前方を注視するという注意義務を十分尽くしていなかつたことに鑑み、被告らのそれに比して原告の責任は特に重く、その責任に照してその負担部分を原告六、被告市、被告会社各二と判断する。

3  しかして、原告は、本件事故につき、被害者の相続人らに対し、合計金五二二万〇三二〇円を支払つたと主張する。成立に争いのない甲第六五号証によれば、原、被告らの被害者に対する連帯債務として認容された本件事故による損害額は合計金一八五〇万三九六二円(及び遅延損害金)であるから、原、被告ら間における原告の負担部分は右金員の一〇分の六に当る金一一一〇万二三七七円である。しかるに原告は、その主張のとおり出損したとしてもいまだ自己の負担部分の金員さえ支払つていないことに帰する。

従つて、被告らに対する求償権の成立を前提とする原告の主張も理由がないといわねばならない。

四  結論

よつて、原告の本訴請求はいずれも理由がないのでこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民訴法八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 桑原勝市 三宅俊一郎 古川博)

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